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(加筆中)運動方程式はたてた。非線形微分方程式を解く(数値計算)と, 実測値の比較は未だ。

粘性と剛性を考慮した単振子の, 係数を明らかにした運動方程式

前提

大気圧中の開放空間に於いて,  変形を全くしない \(l\)=1[m] の釣り糸の両端がそれヽ,

支点, および変形を全くしない 半径  \(a\)= 1[cm],  質量\(m\)=5[g]  の剛球の中心,  とで結ばれたやうな振子

 

Reynolds数,  抗力係数

粘性にまつわる負荷には,   慣性(速度の二乗) に比例する慣性抵抗力と,  速度の一乗に比例する 粘性抵抗力がある。

前者の係数にあたる抗力係数にも定義があるが,  「流体と物体との間の相対速度」といふものが含まれており, そもヽ流体の速度が計算だけでは導けないので,  この定義から直接的に算術で求めるのは難しい。そのため, すでに多くの人たちの実験によつて確認されたReynolds数と抗力係数の関係, を示したチャートを用いることが多いやうに文献で見受けられる。

 

そこでまず, Reynolds数\(R_{e}\)から求めてみる。

$$R_{e} = \frac{\rho}{\mu}av$$

いま,  代表速度\(v\)は,  振子の接線方向の速度の大きさと同じであると仮定すると, 今回の振子に於けるReynolds数は,

$$R_{e} = \frac{\rho_{0}}{\mu_{0}}al \sqrt{\frac{g}{l}}$$

となる。ただし, 簡便のために単振動の周期を用いた 。抗力抵抗は Reynolds数に対して極めて対数的な変化のため,  これの誤差の多少は問題がないからである。

 

さて定数は,    重力加速度\(g = 9.8 \rm{[m/s^{2}]}\) ,   (20℃空気の)粘性率\(\eta_{0}= 1.8 \cdot 10^{−5} \rm{[Pa \cdot s]}\) ,

(20℃空気の) 密度\( \rho_{0} =1.2 \rm{[kg \cdot m^{3}]}\)であるため,

 

$$R_{e} = \frac{1.2}{1.8 \cdot 10^{−5}} \cdot 0.01 \sqrt{9.8} \cong 2 \cdot 10^{3}$$

といふ概算値をえる。

 

さて,  先述した既知の実験結果を用いて, このReynolds数から抗力係数を取得してみる。

この物理的条件は,  流体が流れる円筒と, その内壁に接触しない球 (Drag of Sphere) の存在であり,  それは粘性による損失を確かめるのが目的である。

確かにそれは今回の単振子の場合とは全く条件が異なるけれども,  多くの文献に於いても,  条件が全く違う流体現象であつても, 基準としてこれが採用されてゐるやうに見受けられる。

そしてこれはあらゆる人によって実施されてゐるが,  その結果はおおむね一致しているやうに見受けられる。なので出典に特段に拘ることなく,  そのいづれかの結果を用いることにした。ここで余所から引つ張て来たチャートの画像を貼りつけるのは憚られるため, その測定点群を示すに留める。

 

さて, それによるとReynolds数\(R_{e}\): 抗力係数\(C_{d}\) の概ねの関係は以下に示される。

\begin{array}{c|ccc} \ R_{e} & C_{d} &
\\ \hline 1 & 24 & (層流)
\\ \hline 10 & 3.3 & (層流)
\\ \hline 50 & 1.4 & (層流)
\\ \hline 100 & 1.1 & (層流)
\\ \hline 200 & 0.86 & (層流)
\\ \hline 500 & 0.66 & 亜臨海 (乱流)
\\ \hline 1000 & 0.53 & 亜臨海(乱流)
\\ \hline 2000 & 0.47 & 亜臨海(乱流)
\\ \hline 10000 & 0.44 & 亜臨海(乱流)
\\ \hline 200000 & 0.44& 亜臨海(乱流)
\\ \hline 400000 & 0.1& 臨海
\end{array}

この関係より, \(R_{e}=2 \cdot 10^{3} [ ]\) のとき, \(C_{d}=0.47 [ ]\) をえる。

 

粘性を加味した運動方程式

粘性を導入した場合,  力のつりあいの関係は,

$$ \mathbf{F} = \mathbf{F}_{g}  + \mathbf{F}_{\lambda}  + \mathbf{F}_{\beta}tag{1}$$

となる。たとへば半径\(a\)[m]の球が 鉛直下向きに落下運動する場合の運動方程式は,

$$ m \frac{d^2z}{dt^{2}} = -mg + \frac{1}{2} C_D \pi \rho_0 a^2 \left(\frac{dz}{dt}\right)^{2}+ 6 \pi \eta_{0} a \frac{dz}{dt}tag{2}$$

となる。

 

今回の単振子の場合は,  振り子を吊る糸を \(l\)[m] とすると,   \( v= l \omega \),  \( \omega = d\theta/dt \) のため,

$$ ml \frac{d^2\theta}{dt^{2}} = -mg\sin\theta + \frac{1}{2} C_D \pi \rho_0 a^2 l^{2}\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^{2}+ 6 \pi \eta_{0} a l\frac{d\theta}{dt}        \tag{3}$$

となる。

 

なほ,  慣性抵抗,  粘性抵抗 の単位[N] はそれぞれ, (2)において以下の次元構成に展開できる。

$$ \rm{[N] = [kg/m^{3}][m^{2}]([m/s])^{2}= [kg\cdot m/s^{2}]} $$
$$ \rm{[N] = [N/m^{2}][s][m][m/s]}$$

 

 

 

剛性を加味した場合

剛性を加味する実体振子の例に, ボルダ振り子がある。既に示した粘性は物体の大きさを前提にしているので,

ここでは一旦切り離し, 球の剛性をモーメントの運動方程式を示すと,

$$ I \frac{d^2\theta}{dt}  = mgl sin\theta $$

となる。(3) のディメンジョンに准じて変形すると,

$$ \frac{I}{l} \frac{d^2\theta}{dt}  = mg sin\theta $$

となる。球のイナーシャ(慣性モーメント)は, \( 2ma^{2}/5 \) であり,  実体振子におけるイナーシャは Steiner の定理により,

$$ I = \frac{2}{5}ma^{2} + ml^{2} $$

である。

 

粘性・剛性を加味した運動方程式

さて, いま示した剛性を (3) に導入すると,

$$ \left( \frac{2}{5l}ma^{2} + ml \right) \frac{d^2\theta}{dt^{2}} = -mg\sin\theta + \frac{1}{2} C_D \pi \rho_{0} a^2 l^{2}\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^{2}+ 6 \pi \eta_{0} a l\frac{d\theta}{dt}  \tag{4}$$

をえる。剛性を導入しても係数が変わっただけで微分方程式の形式には変わりがない。なお粘性の部分にかわりがないのは, 先述したとおり, これが既に剛球の大きさに拠る力であるため。

 

ところで,  粘性を考慮した(3)  や,  くわえて剛性も考慮したこの(4)  は解析的にとくことが困難な類の2階非線形微分方程式である。仮に sin項をべき級数展開しても,  なおであらう。

したがつて,  Runge-Kutta など電子計算機を使った 数値計算によつて,  初期値が与えられてゐる場合の 過渡現象(経過時間 t に伴う 振幅\(\theta\) の変化) の測定点群を導き出し,  それから読み取つて周期を得る方法が現実的だらう。それにかんする記述は後日予定してゐる。

 

弾性は加味するか

弾性を加味すると一層複雑になるので今回は割愛する。「毛糸が伸びる」といふ表現はあるけれども,  少なくとも一般的な単振子の場合は,

(ねじり弾性を除けば)その弾性は無視できるだらう。もしいつか気がむけば, 糸ではなくバネだつた場合として,  「粘・弾・剛性」を考慮した運動方程式を記述してみたい。

 

もともとは

この記事の元々の発想は,  粘弾剛性を無視した単振子のモーメントにおける sin項を無視しない場合の周期(計算値) ,

それを無視した場合の周期(計算値),   および実測値らを比較したレポートによる。

そのレポートに於いては, sin を無視しない場合は 初期値\( \theta_{0} \) を段階的に変更し,  それに応じて周期がどう変わるか確認した。

結果,  やはり sin を無視しない方が,  実測値に近いという”感覚”を得たものであつた(初期振れ角が大きいほどになおさら)。

sin を無視すると有効数字 2桁しか確かめ様がないが,  無視しないと有効数字3桁に成りうる(かもしれない), というものであつた。

 

まともな実測値を取る必要性

そもそも件のレポートに於いては振り子の周期をストップウォッチで測定するという行為によつて確かめたが,

この簡易な測定於いて有効数字3桁まで確かめるのは困難であり,   10周期の測定を,  さらにそれを何度も実施し,  結果をヒストラグラムなどで分析し,  それでも 3桁があるいはとれたかもしれないといふレベルにすぎない。近似しない方が実際に近い,  と確認したつもりでも,  ヒトの感覚に依存した測定では客観性が乏しいのである。

簡易測定の値と厳密値(計算値)と実際のところ比較することはできないため,  簡易測定においては 単振動周期との比較をするのが多くのケースだ。

このやうに非線形項を無視しないとかの細かい計算値と比較したい測定値を得るには レーザーだの,  カウンタだの用いる必要がある。